三菱商事は、環境憲章で明示している通り、生物多様性を含む自然資本に配慮し、その維持・保全さらには回復に努めることは当社にとって重要な課題であると認識しています。また、当社の持続可能な成長のために対処・挑戦すべき課題であるマテリアリティの一つとして生物多様性への配慮も含む「自然資本の保全と有効活用」を掲げています。これらの理念やマテリアリティに基づき、TNFDフレームワークに基づく自然関連課題の分析を実施していることに加え、投融資案件の審議に当たって自然資本の観点も織り込んで審議・検討を行うなど、ビジネスが自然資本に与える負の影響を把握し、その影響の最小化に取り組んでいます。
自然資本の中でも森林は生物多様性の保全や温室効果ガス(GHG)の吸収・貯蔵に非常に重要な役割を果たしているといわれています。当社では、森林破壊ゼロに向けて、当社グループにて取り扱う森林リスクコモディティ(大豆、紙・木材、パーム油など)について、個別ガイドラインを制定するなど、その調達が森林破壊につながることがないよう取り組みを進めています。また、当社の人権・労働問題・地球環境などへの取り組みの方針となる「持続可能なサプライチェーン行動ガイドライン」を定めてサプライヤーの皆様に賛同と理解、実践をお願いしていることに加え、環境・社会性面のリスクが高いと判断した商材については、当該ガイドラインの遵守状況を確認するためのサプライヤーに対するアンケート調査を毎年実施しています(詳細はサプライチェーン・マネジメントをご参照ください)。
また、生物多様性を保全する取り組みとして、熱帯林再生プロジェクトやサンゴ礁保全プロジェクトなどの社会貢献活動も展開しています。
当社は、事業による生物多様性への影響の緩和に努めるとともに、事業および環境保全型社会貢献を通じて、生態系の保全に貢献していきます。事業を通じた生態系の保全への貢献について、新規・撤退案件の審査や、既存事業投資先の事業経営のモニタリングを生物多様性の観点からも実施し、改善に資するよう努めています。
所管役員 | 小林 健司(執行役員、コーポレート担当役員(CSEO)) |
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審議機関 (経営意思決定機関である社長室会の下部委員会) |
サステナビリティ委員会 委員会で審議された生物多様性に関わる重要事項は、社長室会にて機関決定され、所定の基準に基づき、取締役会に付議・報告されています。 |
事務局 | サステナビリティ部 |
当社では、投融資案件の審査に際し、経済的側面だけでなくESGの観点も重要視して、総合的に審議・検討しています。生物多様性の観点では、国際自然保護連合(IUCN)などにより開発された生物多様性ツール(IBAT)を2012年から活用、事業サイト周辺における絶滅危惧種の生息状況や保護区域特定情報を把握するなど、事業が与える影響の把握に努めることで、審議・検討に役立てています。新規・撤退案件の審査のみならず、既存事業投資先の事業経営をモニタリングし、改善に資するように努めています。
また、環境・社会性面のリスクが高いと判断した商材については、当社の人権・労働問題・地球環境などへの取り組みの方針となる「持続可能なサプライチェーン行動ガイドライン」の遵守状況を確認するためのサプライヤーに対するアンケート調査を毎年実施しています。その項目として、事業活動による地域コミュニティや生態系への影響の配慮、土壌などの汚染防止に関する方針・戦略・指針の有無、生物多様性の方針・戦略・指針の有無など、生物多様性を含む自然資本に関する調査を実施し、その内容を確認しています。(詳細はサプライチェーン・マネジメントをご参照ください)。
当社ではほぼ全ての事業が自然と接点をもち、その生態系サービスからの恩恵により成り立っています。今後も持続的に事業活動を行っていくためには、当社事業が自然にどの程度依存し影響を与えているかを把握し、そのリスク・機会を分析した上で、自然への過度な依存や負の影響を最小限にとどめ、さらにはその回復に資する取り組みを実施することが重要であると認識しています。
上記認識に基づき、2022年度から2023年度にかけて、TNFDベータ版(v0.1-v0.4)および最終提言(v1.0)のフレームワークを参考に、トライアル分析を実施しました。今後は同分析を通じて得た知見を個別事業の運営に生かしていくとともに、TNFD最終提言を含めた最新のフレームワークや分析手法などを取り入れながら、引き続き自然関連課題の分析および対応に取り組み、当社グループの持続可能性および企業価値の向上に繋げていきます。
TNFDが推奨するLEAPアプローチに基づく分析を行うにあたっては、各事業のサイトを取り巻く詳細な自然環境情報が必要となります。多様な事業を行う当社では、事業ポートフォリオ全体の中で優先順位をつけてLEAP分析に取り組む必要があると判断しました。そのため、分析を2段階に分け、Phase1にて自然への依存・影響が高い事業を特定することで、当社事業のうち特に詳細に分析すべき事業を特定した後、Phase2にて同事業を個別に分析しました。
なお、外部有識者の知見を分析に取り入れるべく、分析にはKPMGジャパンに協力していただきました。
TNFD推奨ツールであるENCORE※国連環境計画と国際金融業界団体が共同開発したツール※のデータを活用し、各事業の一般的な依存度・影響度を算出しマッピングしました。分析のプロセス及び結果は以下の通りです。なお、Phase1では各事業の所在地や環境への取り組みなどは考慮しておりません。
ENCOREにおける全プロセスの依存度・影響度の平均値を算出した結果、平均値よりも両スコアが高い事業として、8事業を特定。結果として、最も依存度が高い事業は水産養殖事業、最も影響度の高い事業は金属資源事業となりました。
依存度と影響度の両スコアが平均を大きく上回る事業は存在しなかったため、以下の点を考慮し、最も依存度が高い水産養殖事業を対象に個別事業の分析を行うこととしました。
金属資源事業における自然資本への影響緩和の取り組みはリハビリテーションをご覧ください。
Phase1にて特定した事業のうち、最も依存度の高い水産養殖事業(サーモン養殖事業を手掛けるCermaq社)を、TNFDのLEAP(Locate、Evaluate、Assess、Prepare)アプローチに則り分析しました。
評価の結果、重要性が高いと評価されたリスク・機会として、以下の項目などが挙げられました。
資源の開発においては、周辺の生物多様性や森林、水などへの配慮が必要です。また、地域社会が重要なステークホルダーの一つとなります。当社がオーストラリアで進める原料炭事業は採掘の前も後も、細心の注意を払い、自然環境、そして地域社会との共生を果たしています。
当社では、1968年に100%子会社である資源投資会社Mitsubishi Development Pty Ltd(MDP社)をオーストラリアに設立し、同社を通じて金属資源事業への投資を行ってきました。同社は2001年に世界大手の資源会社BHP Billiton(BHP社)と共同でBMAを設立し、クイーンズランド州での大規模原料炭事業に乗り出しました。巨額投資を行い操業のリスクを取り、自ら原料炭の主要プレイヤーになろうとする本格的な資源事業への大きな挑戦でした。
オーストラリア東部クイーンズランド州にあるBMA炭鉱。東京23区の2倍にも及ぶ広大な面積から、高品質の原料炭(製鉄の際に鉄鉱石と一緒に高炉に投入し、還元剤として使われるコークスのもとになる石炭)を採掘し、世界約30ヵ国に及ぶ需要家に向け供給されています。その量は年間約6,000万トンと世界最大級です。
BMAでは、社会・環境との共生を図る上で社会の期待や環境規制の要件も考慮し将来的な閉山計画の策定を含め、責任を持って対応しています。法令遵守をするとともに、環境影響評価を踏まえつつ、行政や専門家のレビューも経て、適切な閉山計画を策定します。閉山およびリハビリテーション(原状回復)コストは毎年の長期操業計画の過程で必要に応じて見直され、計画に沿ったリハビリテーションを実施し、社会・環境への負荷の最小化に努めています。
BMAの炭鉱は、大半が露天掘り炭鉱で構成されています。露天掘り炭鉱では、石炭層まで最大で200メートルを超える土砂を取り除いていく作業(剥土)が必要です。
採炭はまず表土をはがすところから始まります。雨の少ないこの地方では、森林は発達せず、表土は灌木混じりの草原に覆われています。30~40cmの表土を植生ごとはがし、この表土を別の場所に将来のリハビリテーションのために保存しておきます。その後、剥土、採炭と採掘プロセスを進めていくと最終的に残る大きなくぼみ(採掘跡)は、整地の上、適切に管理していた表土で覆い、周辺で採取した種子を使って植栽します。
また修復後も回復状態をモニターし、リハビリテーション完了後の地形が安定しているか、流れ出る水質が適切なレベルか、草木がしっかりと根付いているかをチェックします。BMAでは計画策定、修復作業や調査に当たるために、大学で生態学を学んだ専門家が活躍しています。
当社子会社のAgrex do Brasil社は、責任ある大豆に関する円卓会議(Round Table on Responsible Soy Association(RTRS))認証生産者として、RTRS認証基準を受けた約19,000haの農地で大豆の生産・販売を行っています。同社は、ブラジルのマラニョン州の農地でブラジルで初めてRTRS認証を取得しました。RTRS認証取得などの活動を通じて、同社は、土壌管理・保護の効率化、水管理の改善、従業員のモチベーション向上、近隣コミュニティとの関係強化などのさまざまな取り組みを行っています。
当社子会社のAgrex do Brasil社は、業界ガイドラインである大豆モラトリアム(Moratoria da Soja)を遵守し、アマゾン地域において2008年7月以降に森林を切り開いた土地で生産された大豆の取引を禁止しています。毎年、業界団体(ABIOVE/ANEC)及び市民社会の代表を含むワーキンググループが選定した第三者機関による監査を受け、同ガイドラインの遵守状況について確認を行っています。
当社は世界中のさまざまなステークホルダーに対して、ESGに関する取り組みについて積極的に情報発信することに努めています。CDPは世界中の機関投資家などの要請を受けて、企業の環境情報開示を促進する活動を実施し、気候変動対策などの環境情報関して世界最大のデータベースを保有する英国ベースの国際環境NGOで、当社は2014年度から、企業のサプライチェーン上の森林マネジメントを評価するCDP Forestsの質問書に回答しています。
当社子会社のCermaq社は、2011年から国連グローバル・コンパクトのメンバーになっています。国連グローバル・コンパクトが定める原則に基づき、事業を展開しているすべての国で、生物多様性の保全を重要な取り組みとして位置づけています。天然サーモンが生息するすべての地域において、地元の関係者と協力しながら生態系の保全に努めている他、事業を展開する国の法令やASC認証で定められている基準に沿って、養殖海域のゴミの除去や鳥や海獣の死亡数調査などを行っています。また、飼料調達方針として、IUU(違法、無報告、無規制)漁業に由来する魚粉や魚油を使用しないことを定めています。
当社は、2009年2月に高知県、安芸市、高知東部森林組合と協定書を締結し、三菱の創業者である岩崎彌太郎のふるさと高知県安芸市において社有林を含む協定林を「三菱商事千年の森」と名付け、地域の環境保全に貢献することを目的にプロジェクトを開始しました。毎年、社員ボランティアを派遣、間伐などの森林保全活動・交流事業を実施しています。
また、当社は2020年3月に四国森林管理局および安芸市、高知東部森林組合と協定を締結し、彌太郎の森(別役地区)において四国森林管理局が定める「四国山地緑の回廊」※四国の国有林では保護林という制度で貴重な動植物や森林を保護するとともに、保護林と保護林をつなぐ国有林を「四国山地緑の回廊」として保全し、動植物が広く行き来できるようにすることにより、生物多様性の保全を図っています。※設定方針に準じた管理を導入することで合意し、生物多様性の保全に努めています。
沖縄、豪州において、産(当社)・学(大学、研究機関)・民(NGO)で連携しながら推進しています。沖縄においては静岡大学、豪州においてはJames Cook大学をパートナーとしています。プロジェクトの研究成果は、ウェブサイト、国際サンゴ礁シンポジウムなどで発表され、サンゴ礁の環境耐性の解明、さらには海の生物多様性の保全に寄与しています。当プロジェクトは、紺綬褒章、国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)※2010年に名古屋で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された愛知目標の達成を目指す委員会。※が推奨する事業として認定を受けるなど、さまざまな形で評価を頂いています。また、当社は国際サンゴ礁年2018のオフィシャルサポーターとして、サンゴ礁保全プロジェクトの成果を積極的に発信しました。
自然の力を活用した気候変動対策(Natural Climate Solutions。 以下、NCS)を社会貢献活動の一貫として開始しました。
NCSにはさまざまな手法がありますが、当社が注目したのは、放牧地や森林の劣化・減少を防ぎ、植物によるCO2の吸収を保全しつつ、土壌や植物に貯留されるCO2が大気中に放出されることを防ぐ手法です。対象地は南アフリカ。気候変動対策と同時に、地域社会への支援と、生物多様性の保全への寄与も目指しています。
急速に人口が増加する南アフリカのダーバン近郊。同地では人口増に伴う放牧の増加で草や低木で構成される放牧地が減少し始めており、CO2吸収量の低下と、土壌に蓄えられたCO2の放出が懸念されています。本プロジェクトでは、環境NGO コンサベーション・インターナショナルと協業し、地域コミュニティの協力を得ながら、放牧地の保全に取り組みます。併せて、牧畜業の質向上や水資源の保全を通した、地域住民の生活レベル向上も狙いとしています。
当社では、米州の社会問題の解決や欧州・アフリカの環境保全や社会問題の解決を目的にしている三菱商事米州財団(MCFA)および三菱商事欧州アフリカ基金(MCFEA)を通じて、環境保全活動や環境に関する教育研究、貧困問題への取り組みを支援しています。コーヒー生産農家に対する持続可能なコーヒー豆生産の啓発活動を通じてエチオピアのベールエコ地域で生物多様性保全に取り組むFarm Africaや カナダでカリブーの保護活動を行うYellowstone to Yukon Conservation Initiativeなど、多岐にわたるパートナー組織を通じて支援しています。
当社は、2015年4月に企業と生物多様性イニシアティブ(JBIB)※生物多様性の保全を目的として活動する日本の企業団体。※の会員となりました。JBIBは、生物多様性の保全に貢献することを目的に、共同研究の実施など積極的に行動する企業の集まりです。JBIBでは、日々の事業活動において生物多様性に配慮を行い、事業が自然環境に与える負荷軽減を通じて生物多様性の保全に貢献することを追求しています。今後、会員企業とのコミュニケーションなどを通じて、生物多様性の保全に対する取り組みの一層の深化にチャレンジします。
植樹祭の様子
当社は、短期間での熱帯林の再生を目指し1990年に開始した熱帯林再生実験プロジェクトをはじめ、国内での森林保全プロジェクト、海の生物多様性の保全に取り組むサンゴ礁保全プロジェクトなどをはじめ、国内外の環境保全に幅広く取り組んでいます。この一環として、2011年度から株主総会の招集通知や株主通信など、株主の皆様への郵送資料をEメールでお送りすることにご賛同いただいた場合、1名につき1年に2本、植樹を行う取り組みを実施しました。2021年度までに累計約48万本の植樹が実現しました。