三菱商事は、世界中でさまざまなビジネスを展開するに当たって、人権の尊重は重要な要素であると考えています。当社では、創業以来の社是である「三綱領」を拠り所に公正で健全な事業活動を推進しており、企業行動指針、役職員行動規範および社会憲章において人権を尊重する旨をうたい、取り組みを進めてきました。
さらに、当社は『中期経営戦略2024』が目指すMC Shared Value(共創価値)の継続的な創出に向け、当社が事業活動を通じて解決していく重要な社会課題であるマテリアリティを策定しました。 世界中で多様な商品・サービスを取り扱う当社にとって、人権の尊重は「持続可能で安定的な社会と暮らしの実現」、「事業推進における人権の尊重」というマテリアリティの下で重要な経営上の課題の一つとなっています。
また、当社の人権尊重に関する考え方を改めて整理し、明確にした上で取り組みを推進すべく、2024年2月に以下の人権方針を制定しました。本方針は、当社の社長室会および取締役会において承認されています。
私たちは、世界中でさまざまなビジネス※1三菱商事_事業紹介※1を展開するに当たって、人権の尊重はすべての事業活動を支える基盤であると考えています。複雑化する事業環境の中で、私たちは多様な人権課題と対峙しており、人権の尊重に取り組むことが、私たちの事業活動を持続可能なものへとすることに直結すると考えているためです。また、私たちは、創業以来、企業理念である「三綱領」※2三綱領※2を拠り所に、公正で健全な事業活動を推進してきました。「三綱領」には、公明正大な事業活動を通じて物心共に豊かな社会の実現を目指すという理念が含まれており、その理念を実行していくためには、人権の尊重は不可欠です。これらの考えのもと、私たちは本方針を策定し、今後も人権の尊重に取り組んでまいります。
本方針は、三菱商事の全役職員に適用します。また、私たちは、当社グループ各社と本方針を共有するとともに、当社グループ各社の事業経営においても、本方針に沿った人権尊重の取り組みを求めてまいります。
私たちは、当社及び当社グループ各社(以下併せて、当社グループという)が展開する事業のバリューチェーンにおいても人権の尊重に取り組む責任を認識し、サプライヤーをはじめとするビジネスパートナーやその他関係者に対しても、本方針に沿って人権の尊重に取り組むよう求めてまいります。
私たちは「国際人権章典(世界人権宣言・国際人権規約)」、国際労働機関(ILO)の「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」をはじめとした人権に関する国際規範を支持しています。
私たちは事業活動を行う国や地域の法令を遵守します。仮に国際的に認められている人権の基準と事業活動を行う国や地域の法令に矛盾がある場合、国際的に認められている人権の基準を尊重する方法を追求します。
私たちは、私たちのステークホルダーの人権を尊重するため、社会的に弱い立場に置かれ、排除されがちな人々にも特別な注意を払いながら、当社グループがその事業活動を通じて引き起こし、助長し、又はその取引関係によって当社グループの事業、商品、サービスに直接関係する実際の若しくは潜在的な人権への負の影響を特定し、防止・軽減していくために、人権デューデリジェンスを実施します。
私たちは、当社グループの事業活動が人権に対する負の影響を引き起こしたこと、又は負の影響を助長したことが明らかになる場合、正当なプロセスを通じてその是正に取り組みます。また、取引関係によって当社グループの事業、製品、又はサービスと人権への負の影響が直接関係している場合、影響力の行使を通じてその是正に取り組みます。
私たちは、私たちが行う人権デューデリジェンスのみでは、当社グループの事業活動及びバリューチェーンにおける実際の又は潜在的な人権への負の影響をすべて特定することは困難であることを認識し、それらの負の影響をより広く特定し、防止・軽減に取り組むために、社内外のステークホルダーからの相談を受け付けるための窓口を設置・運用してまいります。本窓口の運用に際しては、匿名での相談を受け付けるとともに、相談者が報復などの不利益を被ることがないよう運用します。
私たちは、当社グループの役職員やサプライヤーをはじめとするビジネスパートナーの皆様が、人権尊重の取り組みの重要性を理解し、行動が実践されるように、必要な教育及び能力開発を行っていきます。
私たちは、人権に対する取り組みとその進捗状況を定期的かつ適切に情報開示し、透明性の確保を行います。
私たちは、関連するステークホルダーとエンゲージメントを行い、責任のある対応に努めます。
私たちの人権に係る取り組みは、サステナビリティ施策を管轄するコーポレート担当役員が管掌し、サステナビリティ委員会で討議後、社長室会※3経営意思決定機関※3、取締役会において付議・報告しています。
2024年2月1日制定
当社は、子どもはその権利が侵害されやすい立場にあることから、その人権に関して特別な尊重が必要であると考えます。また、子どもがその人権を尊重されることによって、子ども自身が権利の存在を知り、これにより社会においてますます活躍し、社会の未来を担うことが可能になると信じています。以上の認識に立ち、当社は、子どもの人権に関する国際連合やILOの諸条約※「国連グローバル・コンパクト」「児童の権利に関する条約」「子どもの権利とビジネス原則」「最悪の形態の児童労働の禁止及び撤廃のための即時の行動に関する条約(ILO条約第182号)」など※の内容に賛同し、児童労働を認めず、子どもの人権が尊重されるように配慮し、社内において従業員に対する方針を定めています。特に、「児童の権利に関する条約」については、条約を支持し、この4つの柱である子どもの「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」の考え方に賛同し、最低就業年齢に満たない児童対象者を雇用せず、また児童の発達を損なうような就労はしないことを当社の持続可能なサプライチェーン行動ガイドライン内に掲げ、また「子どもの権利とビジネス原則」を支持するとともに、事業における子どもの権利侵害を回避することや、子どもの権利の実現に向けた社会貢献活動などに取り組みます。
なお、当社は持続可能なサプライチェーン行動ガイドラインで、サプライヤーの皆様に対しても最低就業年齢に満たない児童対象者を雇用せず、また児童の発達を損なうような就労をさせてはならないことを求めています。
当社は、人権尊重のコミットメントの一環として、先住民がいる地域での事業活動においては、先住民が固有の文化や歴史を持つことを認識し、事業活動を行う国・地域の法律や国際的な取り決めに定められた先住民の権利への配慮を行います。また、新規の投融資案件の検討に当たっては、事業が先住民の権利に及ぼす影響を考慮し、関係するステークホルダーと対話を行っており、当社は、国連で採択された「先住民族の権利に関する宣言」、「独立国における原住民及び種族民に関する条約(ILO条約第169号)」などを支持しています。
当社は、事業活動に取り組む上で、従業員を暴力などの危険から守り、資産を盗難などから守ることが重要であると考え、必要な場合は、武装警備員を起用することもあります。当社は、警備における武器の乱用には、人権侵害の潜在的なリスクが伴うことを認識し、警備会社の起用に関しては、事業活動を行う国・地域の法律や国際的な規範の遵守のみならず、関連する国際的な取り決め※「国連グローバル・コンパクト」「安全と人権に関する自主的原則」「法執行官のための行動綱領」「法執行官による力と銃器の使用に関する基本原則」など※を支持します。
当社は、企業のサプライチェーンを取り巻く強制労働など防止の取り組みを開示することを求める法令である「英国現代奴隷法」および「カナダサプライチェーンにおける強制労働・児童労働の防止等に関する法律」に対応するステートメントを開示しています。
2023年度 英国現代奴隷法に係る声明(仮訳) (PDF:1.34MB)過去のModern Slavery Statement(英国)
2022年度 現代奴隷法に係る声明(仮訳) (PDF:1.44MB)過去のModern Slavery Report(カナダ)
2022年度 現代奴隷法に係る報告書(仮訳) (PDF:1.31MB)当社の人権に係る取り組みは、コーポレート担当役員(CSEO)及び取締役・コーポレート担当役員(人事、地域、IT)が管掌し、サステナビリティ部および人事部が方針・施策を企画・立案の上、サステナビリティ委員会およびHRD委員会で討議後、社長室会、取締役会において付議・報告される体制としています。
所管役員 | 小林 健司(執行役員、コーポレート担当役員(CSEO)) 柏木 豊(代表取締役常務執行役員、コーポレート担当役員(人事、地域、IT)) |
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審議機関 (経営意思決定機関である社長室会の下部委員会) |
サステナビリティ委員会、HRD委員会 委員会で審議された人権に関わる重要事項は、社長室会にて機関決定され、所定の基準に基づき、取締役会に付議・報告されています。 |
事務局 | サステナビリティ部、人事部 |
社内で発生した人権問題に関する相談ができるよう、社内に人権相談窓口およびコンプライアンス目安箱など複数の内部相談窓口を設置し、メール・電話・対面などの方法で、いつでも相談ができるような体制を整えています。この相談窓口は匿名で相談することができ、安全性(通報者に対して事後的に解雇その他不利益な取り扱いがされないこと)および内容の秘匿性が確保されるとともに、内容に利害関係を持たない関係者による対応・調査が確保され、本人の希望・意向を最優先した上で最善の解決策を提示しています。なお、この窓口が存在することは、入社時の人権啓発研修を通して案内し、社内掲示板に常時掲載するとともに、毎年実施している全役職員が受講対象であるコンプライアンスeラーニングにおいても案内しています。さらに、関連会社に出向する社員に対しても人権研修を通してこの窓口の存在を案内するなど、連結ベースでの対応も行っています。
内部通報制度の2022年度通報受付件数80件のうち、ハラスメント、労働安全衛生や労務管理、個人情報の取扱などの人権関連の通報案件は46件でした。コンプライアンス・オフィサーは、通報をうけた事案につき、関係者の人権、名誉を侵害しないように十分配慮したうえで、必要な調査を行います。また、その結果は、チーフ・コンプライアンス・オフィサーに報告され、再発防止策の立案・実施に役立てています。
当社は、当社グループの事業活動における人権・環境への負の影響を特定し、これを防止・軽減し、責任を果たしていくことが重要であるとの考えの下、事業における人権・環境デューデリジェンスを進めています。この人権・環境デューデリジェンスの一環として、当社グループの事業活動が人権・環境に負の影響を与えている、または負の影響を与えることが懸念される事案について、社外のステークホルダーからの相談を受け付けるための窓口を設置・運用していくことにより、それらの負の影響を幅広く特定し、防止・軽減に取り組んでいます。
当社では、社外の有識者3名をメンバーとするサステナビリティアドバイザリーコミッティーを設置しており、人権への取り組み、当社のサステナビリティの取り組みに対し、さまざまな視点からのアドバイスを定期的に頂いています。定例のコミッティーに加え、年に1度、事業現場の視察もして頂き、当社の取り組みへの理解を深めていただく他、各メンバーの専門的見地から助言を頂いています。
当社は、トレーディングのみならず、事業パートナーなどと共に世界中の現場で開発や生産・製造などの役割も担っており、また世界中で取り扱う商品・サービスも多岐に亘るため、事業における人権・環境への負の影響を特定・分析し、これを回避・軽減し、責任を果たしていくことが重要であると考えています。そこで、当社では、事業における人権・環境デューデリジェンスを進めています。
【当社事業のバリューチェーン】
【トレーディング関連の人権・環境デューデリジェンスのプロセス】
教育センターで学ぶ子どもたち
当社では、人権の尊重を含めた当社の理念、および関連ガイドラインの研修(新入社員研修などの階層別研修や、貿易実務に係る研修などの社内研修など)を実施しています。
対象 | 総実施時間数 | 受講割合※各研修受講割合の平均値。※ |
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単体役職員 | 5時間 | 97.1% |
先住民青年の健全な自立を支援する「クロンターフアカデミー全国支援プログラム」を2023年度より支援しています。クロンターフ財団は先住民族であるアボリジニ及びトレス海峡諸島民の男子児童の中等教育終了を目標とし、豪州各地の公立高校にクロンターフアカデミーを開設、先住民児童の学業を行っています。
当社では、1974年より、「母と子の自然教室」を開催しています。これは、ひとり親家庭の母子を対象とした人や自然との触れ合いを体験するキャンプで、この活動を通して、未来を担う子どもたちが社会でいきいきと活躍できることを目指し、開催しています。参加親子が自然の中で楽しく安全に遊ぶことができるよう、同行する社員ボランティアは約3カ月間、トレーニングとミーティングを重ねキャンプをつくり上げています。2023年度は東京都に住むひとり親家庭の母子20世帯50名が参加し、山梨県南都留郡で夏の自然を満喫しました。これまで17,951名の親子と1,194名の社員ボランティアが参加しており、「継続」と「社員参加」をモットーとする当社の社会貢献活動を代表する活動の一つです。
当社は、国連が開催する「ビジネスと人権フォーラム」への定期的な参加を通して企業と人権に係る最新動向の把握に努めています。2023年11月にスイスのジュネーブで開催された同フォーラムへ参加し、人権の専門家や他参加者と人権への取り組みにつき積極的に意見交換を行いました。
また、当社は、当社子会社の東洋冷蔵、MCアグリアライアンス、三菱商事ファッションと共に、国連開発計画(UNDP)主催の日本企業向け人権デューデリジェンス研修「ビジネスと人権アカデミー」(2022年10月開催)に参加しました。当該研修では、二日間に亘る国内外の専門家からの講義や参加者間のグループディスカッションなどを通じ、人権デューデリジェンスの背景にある各種国際スタンダードの概要や実践における具体的なプロセスについて理解を深めました。
当社は、WBCSD(持続可能な開発のための世界経済人会議)やグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパンへの参加を通じて、企業間の情報交換を行い、ベストプラクティスを学び、実践することに結び付ける活動をしています。また、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に関連するリサーチを専門とする団体であるShiftや、様々なステークホルダーと関わる独立研究所である英国国際法比較法研究所(BIICL)が主催するセミナーや研修にも積極的に参加しています。